「四十一本のさくら」

今日は3月13日、木曜日です。




今回は、遠山啓(とおやま ひらく)さんの「四十

一本のさくら」を記します。




遠山啓さんは、「水道方式」で知られる数学者です。



数学が好きになったきっかけが書かれています。




かなり以前の国語科教科書に掲載されていたとの

ことです。




長い文章ですが、載せます。

(ブログで見やすいようにしました)






1.png






☆「四十一本のさくら」       遠山啓


 わたしが、小学校3年の生徒のころでした。



 算数の時間に、先生は黒板に次のような問題を

書きました。



「120メートルの土手があります。その土手に、

 3メートルおきにさくらの木を植えました。な

 ん本植えたでしょうか。」



 この問題を書き終わってから、先生はクラス全

体を見わたして、こう言いました。


「この問題はみなさんにはむずかしいかもしれま

 せん。よく考えてください。」


 そう言って、先生はにっこりわらいました。


 みんなは、さっそくえんぴつを取って、帳面に

向かって考え始めました。



 ぼくは、もう一度、黒板こ書いてある問題を読

んで考えました。



 木と木の間が3メートルだから120メートル

を3メートルで等分すればよいことは、30秒と

たたないうちにわかりました。



 ぼくは帳面120÷3=40と書き、その下に、

答40本と書いて、えんぴつを置きました。


 そしてほかの子どもがどうしているかを見てい

ました。


 すると、たいていの子どもが答を書き終わって

いるようすでした。そして、先生が、


「できた人。」


というのを待っているようです。



 ぼくも、すぐ手を上げようと思っていました。



ところが、さっき先生が、



「この問題はむずかしい。」



と言ったことが、ふと頭にうかんだのです。



「こんなやさしい問題を先生は、なぜむずかしい

 と言ったのだろう。少し変だな。もう一度よく

 考えてみょう。」


と、ぼくは思い直したのです。                         



 しかし、土手にさくらの木の植えてある光景を

思いうかべてみたのですが、さくらの木が多すぎ

て、なかなかうまくいきません。


 ぼくは、少しあせってきました。
 


 そのうちに、先生の「できた人」という声が聞

こえて、友だちは元気に「はい」「はい」と言い

ながら、手をあげています。



 しかし、先生は、ほんとうにできたのかなあ、

と言いたげな表情でひとりの友だちをさしました。



 その友だちは、喜びいさんで黒板に出て、ぼく

の考えたのと同じように40本という答を書きま

した。



 先生は頭をふりながら


「これでいいですか。」


と言いましたので、みんなびっくりして、だまっ

てしまいました。


 ぼくは、ますます自信をなくしてきました。



 そして、ぼんやりと、教室のまどの外をながめ

ていました。



 ところが、その時、はっと思いつくことがありま

した。



 まどは6つあるが、柱はなん本あるのだろうか。


 数えてみると、7本あるのです。


 まどが6つで柱が7本。柱のほうが一つ多いぞ。


 ぼくは、うれしくなりました。



 そして、今度は、まどの数を一つへらしてみる

とどうでしょう。



 まどが5つで、柱が6本になり、やはり、柱の

ほうが多いのす。



 だんだんそうしていくと、まどが1つしかない

ときは、柱が2本で、やはり、1本だけ柱のほう

が多いのです。



 今度は頭の中で、まどのほうをふやしてみまし

た。


 それでも、やまり、まどの数より柱が1本多い

ことに気づきました。



 まどの柱を、さくらの木と同じ物だと考えると、

いくら多くても柱、つまりさくらのほうが、間の

数より1つ多い。


 間が40になる場合だって同じはずだ。だから、

答は40本ではなくて、41本としなくてはなら

ない。



 ぼくは、うれしさでわくわくしながら、書いて

あった答の所を消しゴムで消して、その代りに、


40+1=41 答41本と書いて、勢いよく手

を上げました。


 そして、席から立って、黒板に、帳面のとおり

に書きました。



「それでよし。そのわけをせつ明しなさい。」


と、先生まうれしそうな顔で言いました。



 ぼくは、教室のまどと柱から考えついたことを、

みんなに話しました。




 そのときから、もう40年近くの年月がたって

いますが、ぼくは、このことを、じつにあざやか

に覚えています。



 それは、自分ひとりができて先生にほめられた

からでしょうか。


 どうも、そうではなさそうです。


 それは、さくらの木を、まどの柱に直して考え

るというたいせつな考え方に気づいたからである

らしいのです。



 ぼくは、成人して数学者になりましたが、どう

して数学をせんもんに選ぶようになったか、自分

でもよくわかりません。



 しかし、数学者になるようにぼくを仕向けたの

は、案外、3年生のときの「四十一本のさくら」

だったかもしれません。






1.png






初めてこの文章に触れたとき、この先生のように、

子どもの心に種をまくことができるようになりた

いと思いました。



子どもは数字を見ると、よく考えもしないでさっ

さと計算を始めてしまいがちです。



わたしは算数の授業の時に


「わかたず式で!」

「絵や図をかいて!」

「数直線をかけば?」


といつも子どもたちに声を掛けていました。


考える道具は必要です。


ここでは「まどと柱」が考える道具ですね。


考える道具について教えてくれたのが「四十一本

のさくら」です。
 203

この記事へのコメント

2025年03月13日 07:11
ナイス!
HAMAKOU
2025年03月13日 10:10
Rinkoさん ナイスをありがとうございます。